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前橋地方裁判所 昭和35年(ワ)156号 判決 1967年4月20日

原告 中島雅子 外三三三〇名

被告 群馬県

主文

一  被告は、別紙第一債権目録記載(一)の原告らに対し、それぞれ同目録別表第三欄に記載された金員およびこれに対する昭和三五年六月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、別紙第二債権目録記載(一)の原告らに対し、それぞれ同目録別表第三欄に記載された金員およびこれに対する昭和三五年六月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、別紙第三債権目録記載(一)の原告らに対し、それぞれ同目録別表第三欄に記載された金員およびこれに対する昭和三五年七月六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  別紙第一ないし第三債権目録記載各(一)の原告らのその余の請求を棄却する。

五  別紙第一ないし第三債権目録記載各(二)の原告らの請求を棄却する。

六  訴訟費用は、主文第四項記載の原告らと被告との間に生じた分はこれを五分し、その四を同原告らの負担とし、その余を被告の負担とし、主文第五項記載の原告らと被告との間に生じた分は、同原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告の求める裁判

「被告は、原告らに対し、それぞれ別紙第一ないし第三債権目録別表各第一欄に記載された金員およびこれに対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二、被告の求める裁判

「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求める。

第二、請求の原因

一、原告らは、いずれも群馬県内の公立学校の教育公務員として、少なくとも、別紙(一の(一))原告目録(一)記載の原告らは、昭和三〇年五月一日から、別紙(一の(二))原告目録(二)記載の原告らは、同年六月一日から、別紙(一の(三))原告目録(三)記載の原告らは、同年七月一日から、昭和三五年三月三一日までの間、群馬県内の公立学校に勤務していたものである。

二、被告は、市町村立学校の教育公務員については市町村立学校職員給与負担法により、県立学校の教育公務員については学校設置者として、それぞれ、原告ら公立学校の教育公務員の宿日直手当の支給負担義務者である。

三、原告らは、それぞれ、前記一記載の期間それぞれの勤務する公立学校において、宿直、日直および半日直(勤務時間五時間をこえない日直勤務をいう。)勤務をなした。

ところで、原告らは、それらの宿日直勤務(半日直勤務を含む。以下同じ。)について、宿日直手当として被告から昭和三〇年五月一日から同年六月三〇日までは宿直・日直勤務各一回につき金一六〇円の割合で、同年七月一日から三三年九月三〇日までは宿直・日直勤務各一回につき金二〇〇円の割合で(但し、盲学校において勤務した宿日直勤務については、昭和三〇年五月一日から昭和三三年九月三〇日まで、勤務一回につき金一六〇円の割合)、同年一〇月一日から昭和三五年三月三一日までは宿日直勤務各一回については金二二〇円の割合、半日直勤務についてはその一回につき金一一〇円の割合で、その手当の支給をうけたのみであり、かつ、昭和三〇年五月一日より昭和三三年九月三〇日までの間は、半日直勤務については、その手当の支給を受けていない。

四、1 原告ら公立学校の教育公務員の宿日直手当は、地方公務員法第二四条第六項、第二五条第一項により、条例をもつてこれを定め、かつ条例に基づかずにこれを支給できないものとされているところ、群馬県においては、昭和三一年九月二九日に、原告ら公立学校の教育公務員の給与に関する条例として、「群馬県立学校職員の給与に関する条例」(条例第四一号)および「群馬県市町村立学校職員の給与に関する条例」(条例第四二号)がそれぞれ制定され、昭和三一年九月一日から適用されたが、それまでの間は、みぎの給与に関する条例は未制定であつた。

ところで、みぎ条例第四一号は、その第二二条で、「宿直又は日直の勤務をした学校職員には、その勤務一回につき三百六十円をこえない範囲内において、教育委員会規則で定める額を宿日直手当として支給する。」と規定し、みぎ条例第四二号は、その第二一条で「日直又は宿直の勤務をした学校職員には、その勤務一回につき三百六十円をこえない範囲内において、教育委員会規則で定める額を宿日直手当として支給する。」と規定し、それぞれ宿日直手当についてその額および支給方法の決定を教育委員会規則に委任し、群馬県教育委員会は、昭和三三年一一月一八日、みぎ条例の委任に基づいて「群馬県公立学校職員の宿日直手当支給に関する規則」(教育委員会規則第一二号)を制定し、同年一〇月一日に遡及して適用することとした。そして、みぎ規則第三条第一項は、「宿日直手当の額は、宿直又は日直一回につき二百二十円とする。ただし、勤務時間が五時間未満の場合には、その勤務一回につき百十円とする。」と規定している。

2 しかしながら、みぎ条例第四一号第二二条および条例第四二号、第二一条(以下みぎ二条例を単に「本件条例」といい、みぎ両条文を「本件条例第二二条等」という。)および前記教育委員会規則(以下「本件規則」という。)は、いずれも後記理由により違法であつて無効のものであるところ、条例の制定されるまでの間、および適法有効な条例の制定されるまでの間における公立学校の教育公務員の宿日直手当については、地方公務員法附則第六項の規定により「なお従前の例による」ことになるものである。

そして、原告ら公立学校の教育公務員について、みぎ附則第六項にいう「従前の例」とは、地方公務員法施行当時適用されていた教育公務員特例法第三三条(昭和二六年法律第二四一号による改正前の規定)に基づいて定められた同法施行令(昭和二四年政令第六号)第一一条(昭和二六年政令第二一九号による改正前の規定)、すなわち「公立学校の教育公務員の給与については、国立学校の教育公務員の例による」との規定がこれにあたり、結局、みぎ規定により、公立学校の教育公務員の給与は国立学校の教育公務員のそれと同一に取り扱うべきものとなるものである。

そして、国立学校の教育公務員の宿日直手当は、一般職の職員の給与に関する法律第一九条の二に基づいて定められた人事院規則九―一五の第二条の規定により、「宿日直勤務一回につき金三六〇円(五時間未満の場合は金一八〇円)」と定められているので、前記の給与に関する条例未制定の間ないし適法有効な条例の制定されるまでの間の原告ら公立学校の教育公務員の宿日直手当は、みぎと同額が支給されるべきものである。

ところで、原告らはいずれも前記の教育公務員法第三三条にいう公立学校の校長ないし教員であつたものであるから、まず前記条例が制定されるまでの間は、原告らの勤務した宿日直勤務(半日直勤務を含む。)各一回につき、それぞれ前記の国立学校の教育公務員と同額の金額による宿日直手当が支給さるべきである。

五、ところで、本件条例第二二条等と本件規則は、以下に述べるように違法のものであつて無効である。すなわち、

1  地方自治法第二〇四条は、普通地方公共団体の常勤の職員に対し支給すべき給与手当等の額および支給方法は条例でこれを定めるべき旨を規定し、また、地方教育公務員について、地方公務員法第二四条、地方教育行政の組織および運営に関する法律第四二条が県費負担職員たる地方教育公務員の給与その他の勤務条件を、条例で定める旨を規定するものであるが、これら法律が地方教育公務員の給与その他の勤務条件を条例で定めるべき旨を規定する趣旨は、次のところにある。

地方公務員は、もとより憲法第二八条にいう勤労者であるから、もともとその給与その他の勤務条件は使用者と勤労者との対等な団体交渉によつて決定さるべく、あるいは争議行為その他の団体行動によつてその解決が見出さるべきものである。しかるに、地方公務員法は、地方公務員に対し争議権や給与その他の労働条件について協約を締結する権利を認めないとする法制をとつたので、かくては地方公務員の労働条件や生活が脅やかされ、ひいては健全な労使関係が害われるおそれなしとしないから、同法は、その代償として、身分保障(同法二七条、四九条)、福祉および利益の保護(同法四一条、第八節第一、二款)、任用についての保障(同法二二条)、国家公務員との適応均衡の原則(同法第一四条、第二四条)を設けるほか、中立の第三者機関たる人事委員会をおき、これに準司法的権能さえ与えて監視是正の任を期待することとしたが、これらと同様の趣旨で、給与その他の労働条件についても使用者の一方的決定に委ねることなく、条例をもつて定めることにより地方公共団体の住民の意思を体現する議会の意思にかからしめ、住民の監視のもとにおかしめようとしたものである。

前記各法律の法意は以上述べたところにあるものであるから、みぎ各法律は、地方公務員の給与その他の勤務条件の内容すなわち給与についていえば、給与表、昇給の基準、調整額、各種手当の単価等およびその支給方法たる給与の期間計算、支給期日等を具体的かつ明確に細目にわたつて他の機関ないし規則命令の決定に委ねることなく、条例自体において規定すべきことを要請しているものというべきである。

しかるに前記に明らかなとおり、本件条例第二二条等は宿日直手当の額について条例自体においてその定額を規定せず、これを教育委員会規則に委任したものであるから、本件条例第二二条等は地方自治法第二〇四条、地方公務員法第二四条に反する違法のものであつて無効といわねばならない。

2  かりに、地方教育公務員の宿日直手当の定額は条例自らにおいて定めることを要せず、他に委任し得るとしても、本件条例第二二条等は、さらに次の理由により違法のものであつて無効といわねばならない。

(一) 地方自治法第二〇四条第三項、地方公務員法第二四条第六項の立法趣旨は、先に述べたとおり地方公務員の給与その他の労働条件の決定を使用者が一方的に決定するところに委ねず、これを議会を通じて地方住民の意思によらしめることとしたものであるから、かりに、条例においてその細目の決定を他の機関等に委ねる場合にあつても、その委任が前記法律に反しないものであるためには受任機関による独断的または不合理な恣意的決定が許されない具体的な保障規定が委任する条例自体に設けられていることが必要不可欠である。

しかるに、本件条例第二二条等は、前記のとおり「……三百六十円をこえない範囲内において……」と上限を劃したにとどまるほか、その下限について何ら定めるところはなく、他に本件条例自体においては委任をうけた教育委員会の裁量判断が恣意にわたることを制約するに足るなんらの措置をも講じていないもので、本件条例第二二条等は、原告ら地方公務員の宿日直勤務に対する報酬たる宿日直手当の支給額の決定を教育委員会に白地委任したに等しいものであるから、地方自治法第二〇四条第三項、地方公務員法第二四条第六項に違反するものといわねばならない。

(二) 次に、本件条例第二二条等は「……教育委員会規則で定める額を宿日直手当として支給する」と規定し、地方教育公務員に対し支給する宿日直手当額の決定を使用者たる教育委員会に委任しているものである。

もともと、法が地方公務員の給与その他の労働条件を「条例で定める」としたのは、前記のように地方公務員の労働基本権が制限され労使対等の原則が失われた法制のもとで、労働条件の決定を使用者に委ねることは、公平に反するのみならず健全な労働関係を害うおそれがあるものとみたからにほかならない。従つて労働条件につきその細目の決定を他に委任する場合にあつても、これを公平な中立の第三者機関に委ねるべき場合はとにかく、仮りにも使用者の単独に決定するところに委ねることは許されず、法はこれを禁止するものと解さねばならない。

しかるに、本件条例第二二条等は、前記のとおり労働条件たる宿日直手当の額の決定を原告ら地方教育公務員の使用者たる県教育委員会に委任したものであるから、地方自治法第二〇四条、地方公務員法第二四条第六項に違反するものであることは明らかである。

3  みぎに述べた通り本件条例第二二条等は違法、かつ無効であり、同条による教育委員会に対する規則制定の委任は違法のものであるから、みぎ委任に基づき制定された本件規則第三条第一項もまた違法であつて無効のものであることは明らかである。

4  さらに、かりに本件条例第二二条等が適法有効であるとしても、なお、本件規則は次に述べる通り違法、かつ無効のものである。すなわち、

本件条例第二二条等が適法有効なものと解されるとすれば、それは、本件条例第二二条等が、公立学校の職員の宿日直手当の額を「三百六十円をこえない範囲において…………定める」と規定するにも拘らず、その額の決定を無条件になんらの制約もなく教育委員会の定める規則に委ねるものとする趣旨ではなくて、金三百六十円をこえない範囲で宿日直手当額を決定するに際し、遵守すべき法令たる地方公務員法第一四条、第二四条ならびに、地方公共団体の教育公務員について国立学校の教育公務員の給与の種類及びその額を基準として定めるものとする教育公務員特例法第二五条の五第一項の趣旨に従つてその額を決定すべく受任機関たる教育委員会を覊束したものと解するほかない。本件条例第二二条等は、教育委員会が宿日直手当の額を定める規則を制定するにあたつては、国立学校の教育公務員の宿日直手当が宿日直勤務一回につき金三六〇円(半日直勤務については金一八〇円)とするのに準じて定めるべきで、これと同額かこれに近い手当額を決定すべく、教育委員会を覊束したものというべきである。しかるに、国立学校の教育公務員の宿日直手当の額は、前記のとおり昭和二八年一月二九日以降は人事院規則九―一五により宿日直勤務一回につき三六〇円(半日直勤務については一八〇円)と定められているにもかかわらず、本件規則の定めるところは、昭和三三年一〇月一日以降において宿日直勤務一回につき二二〇円(半日直勤務については一一〇円)であつて、国立学校の教育公務員のそれに遠く及ばず、とうていみぎを基準としたものとは解されないものである。

また、宿日直勤務につき必要な労働基準法施行規則第二三条の許可の基準として、行政通達(昭和三〇年八月一日基発第四八五号、各都道府県労働基準局長宛労働次官通知)の指示しているところによると、群馬県における昭和三五年四月一日現在での宿日直勤務許可のための最低基準額は二七三円である。しかるに、本件規則の定める額は、みぎの最低基準にさえ及ばず、みぎの額をもつては、原告ら公立学校の教育公務員に対し宿日直勤務を命ずることすら許されないものというべきである。

従つて、本件規則第三条第一項は、本件条例第二二条等の委任の範囲を著しく逸脱したものであることは多言を要しないし、さらに、地方公務員法第一四条・第二四条ならびに教育公務員特例法第二五条の五第一項にも違反するもので無効のものと解すべきである。

5  以上のとおり、本件条例第二二条等およびその委任に基づく本件規則が、いずれも無効のものであるところ、地方公務員法第二四条第六項・附則第六項にいう条例は、もとより適法有効な条例をいうのであるから、前記の条例および規則が無効である以上、原告ら公立学校の教育公務員の宿日直手当は、なお従前の例によるべく、そうすると本件規則が適用された日の後に勤務した前記三記載の宿日直勤務についても前記四記載の通り国立学校の教育公務員の宿日直手当と同額の法定の手当が支給されるべきものである。

六、従つて、原告らは、宿日直手当につき、前記三記載の通り、その一部の支給をうけたにとどまるので、みぎ法定支給額と既支給額との差額については、被告に対しその支給を請求する権利を有するところ、原告らのうち、別紙第一債権目録記載(一)、(二)の原告らにおいて昭和三〇年五月一日から、別紙第二債権目録記載(一)、(二)の原告らにおいて同年六月一日から、別紙第三債権目録記載(一)、(二)の原告らにおいて同年七月一日から、いずれも、昭和三五年三月三一日までの間において、その勤務する群馬県内の公立学校において勤務した宿直勤務および日直勤務(勤務時間五時間未満の勤務を含む)について、前記の法定支給額から、前記三記載の既支給額を控除した額を、各原告らにつき計算すると、別紙第一ないし第三債権目録別表の各第一欄(「原告第一次主張債権額」)記載のとおりである。

七、よつて、原告らは被告に対しみぎの未支給宿日直手当金およびこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払いずみまで年五分の割合による金員の支払いを求める。

第三、請求の原因に対する被告の答弁および抗弁

一、請求原因一、二記載の事実を認める。請求原因三記載の事実のうち、原告らが、その勤務する群馬県内の公立学校においてなした宿日直勤務について、その宿日直手当として、原告ら主張の期間、その主張の額の金員を支給したこと、盲学校における宿日直勤務の宿日直手当の額が原告主張通りであり原告主張の期間原告主張の半日直勤務については手当を支給していなかつたことは認める。

二、請求原因四記載の主張のうち、原告ら地方教育公務員の宿日直手当には地方公務員法第二四条第六項、第二五条第一項の適用があること、群馬県における公立学校の教育公務員に適用される給与に関する条例がその主張の日に制定適用され、ついで群馬県教育委員会規則が原告主張通り制定され、遡及して適用されたこと、それまでの間は、給与に関する条例の制定がなく、地方公務員法附則第六項は、みぎ条例制定に至るまでの間はなお従前の例によると定めるものであることは認める。その余の原告の主張を争う。請求原因五記載の主張を争う。

三、請求原因六記載の事実のうち、原告らが原告ら主張の期間その勤務する群馬県内の公立学校において宿日直勤務をなし、それらについて原告ら主張の計算方法によるときは、原告らに支払うべき金額は原告ら主張の通りとなることは認める。

四、1 群馬県においては、昭和二三年七月一七日、公立学校の教育公務員に対する宿日直手当につき「公立小学校及び中学校教職員の日直手当及び宿直手当支給要綱」(同日付教育部長通達)が定められ、同年四月一日に遡つて適用されていたが、地方公務員法施行後も、条例制定後、前記教育委員会規則が制定適用された昭和三三年九月三〇日までの間は、その従前の例によるものとして、みぎ支給要綱に従つて支給されていた。

(一)  原告ら公立学校の教員は、昭和二四年一月一二日施行の教育公務員特例法第三条により地方公務員にその身分が変更されたが、その給与については、同法第三三条(昭和二六年法律第二四一号による改正前の規定。以下「同法旧第三三条」という。)、同法施行令第一一条(同じく昭和二六年政令第二一九号による改正前の規定。以下「施行令第一一条」という。)により国立学校の教育公務員の例によるものとされたことは、原告主張のとおりである。

ところで、当時、国立学校の教育公務員の給与については、昭和二三年法律第二六五号によつて一部改正された政府職員の新給与実施に関する法律(昭和二三年法律第四六号)が適用されていたものであるが、同法第一条に規定された給与の種類は、「俸給、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務手当、休日給、夜勤手当」であつて、宿日直手当は廃止されていた。(もつとも、国立学校の教育公務員の宿日直勤務については昭和二四年七月七日給本甲第二四号「政府職員の新給与実施に関する法律の解釈及び運用方針について」(人事院通達)により、各人別定率制の超過勤務手当が支給されていた。)他方、原告ら地方教育公務員が、前記のとおり地方公務員たる身分を取得した後は国家公務員法附則第一六条による労働基準法の適用除外をうけなくなつたので、地方教育公務員に対し宿日直勤務を命ずることは別として、労働協約締結権のない地方公務員に対しては、労働基準法第三三条により災害その他さけることのできない事由のない限り、超過勤務を命じ得ないものとなつた。のみならず、当時、市町村立学校の教職員に対する超過勤務手当の支給は、学校設置者である市町村の負担であつて市町村立学校職員給与負担法によつても被告県の負担とされてはいなかつたから、被告はみぎの教職員らに対して超過勤務手当を支給する地位にはなかつた。以上のように、昭和二四年四月一日から昭和二七年法律第三二四号が公布される昭和二七年二月二五日までの間は、前示教育公務員特例法旧第三三条・同法施行令第一一条の規定にもかかわらず、公立学校の教育公務員の宿日直手当については、そのよるべき国立学校の教育公務員の例がなかつたものである。

(二)  これより先、昭和二三年七月一〇日学校教育法及び義務教育費国庫負担法の一部を改正する法律(同年法律第一三三号)が施行され、同年四月一日に遡つて適用され、これにより日直および宿直に関する手当の半額もまた国庫で負担することとなり、昭和二四年五月七日公布された義務教育費国庫負担法施行令(昭和二四年政令第九〇号)は、その第四条で、日直および宿直に関する手当の額は、国家公務員の例に準じて、文部大臣が大蔵大臣と協議して定めた額と規定し、この規定も昭和二三年四月一日に遡及して適用されることとなつた。また、同年七月一〇日市町村立学校職員給与負担法が制定され、市町村立学校の教職員の宿日直手当も都道府県の負担とされ、同じく遡及して適用されることとなつた。そして、昭和二四年一月一二日教育公務員特例法が施行された当時はみぎの二法律および施行令がその効力を有していたものであるところ、前記の義務教育費国庫負担法第二条・同法施行令第四条および市町村立学校職員給与負担法第一条の規定は、明らかに教育公務員特例法旧第三三条にいう他の法律に特別の定めある場合を規定するものと解すべきである。

ところで、教育委員会法(昭和二三年法律第一七〇号)第四条第一項は、「教育委員会は、教育、学術および文化(教育という、以下同じ)に関する事務、並に当該地方公共団体および地方公共団体の長の権限に属すべき教育事務を管理しおよび執行する」と定め、同法第四九条は、「教育委員会は、第四条に定める権限を行使するため、左に掲げる事務を行う」と定め、その事務をして同条第六号は「教育委員会および学校その他教育機関の職員の任免その他人事に関すること」と定めている。従つて、群馬県教育委員会は地方教育公務員の人事に関する事務を行う権限を有するものであるから、教職員の宿日直手当支給に関する法規を定める権限を有することは明らかである。

そこで、群馬県教育委員会は、みぎの権限に基づき、地方教育公務員の宿日直手当についてはよるべき国立学校の教育公務員の例がないところから、教育公務員特例法旧第三三条にいう特別の定めである前記の義務教育費国庫負担法第二条等の規定に準拠して、前記「支給要綱」を定め、これに基づき宿日直手当を支給していたものであり、みぎの支給が法的根拠を有することは以上に主張したところにより明らかである。

(三)  ついで、昭和二六年二月一三日地方公務員法第二四条が施行されたが、同法の附則第六項にいう「従前の例」とは、原告の主張するような教育公務員特例法旧第三三条・同法施行令第一一条の規定するところによるのではなくして、従前、教育委員会において前記の権限に基づき定めた前示支給要綱に基づく宿日直制度を指すもので、みぎ附則第六項はこれを踏襲すべき趣旨に解すべきである。

さらに、昭和三一年九月二九日制定、同月一日から適用のあつた前示地方教育公務員の給与に関する条例は、宿日直手当の額およびその支給方法を教育委員会規則を以て定めるものとし、その実施あるまでの間は、本件条例第四一号附則第三項・第四二号附則第五項によりなお従前の例によることとなつたところ、その教育委員会規則が、昭和三三年一一月一八日制定され、同年一〇月一日から適用されたので、みぎの規則適用の日の前日までは、みぎ附則により、従前の例である前記支給要綱に基づき宿日直手当が支給されたものである。

2 つぎに、昭和二六年六月一六日教育公務員特例法の一部を改正する法律(同年法律第二四一号)が制定され、これにより同法旧第三三条の規定が削除されて、新たに同法第二五条の五が新設され、同法旧第三三条の削除に伴い教育公務員特例法施行令の一部を改正する政令(同年政令第二一九号)により同施行令第一一条が削除された。そして、みぎの改正は、いずれも地方公務員法附則第六項の効力が生じた日である同年二月一三日に遡及して効力を有するとされた。原告らは、みぎの第三三条・第一一条が現に効力を有するとして、昭和二八年一月一日に制定された人事院規則九―一五の第二条が原告ら地方教育公務員の宿日直手当についても適用されると主張するが、みぎの教育公務員特例法旧第三三条、同法施行令第一一条は、みぎの通り昭和二六年二月一三日に遡つて失効したものであるから原告ら地方教育公務員の宿日直手当についてはその後に制定されたみぎ人事院規則を適用する余地がない。

3 地方教育公務員については、地方公務員法第五七条、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第三五条により特別の規定のない限り地方公務員法の適用があることはいうまでもないのが、教育公務員特例法第二五条の五の規定は地方教育行政の組織及び運営に関する法律第三五条にいう教育公務員の給与について他の法律に特別の定めがある場合にあたるから、教育公務員特例法第二五条の五の規定は、一般法である地方公務員法、その附則第六項に優先するものであることも自明である。従つて、みぎの「国立学校の教育公務員の給与の種類および額を基準として定める」とする前記第二五条の五の規定に基づき、これに従つて定められた前記支給要綱が地方公務員法附則第六項の規定にもかかわらずこれに優先して適用されるものといわねばならない。

4 また、教育公務員特例法施行令第一一条の国立学校の教育公務員の例によるとあるのは、地方教育公務員の給与を、国立学校の教育公務員の給与に準じて、各地方公共団体の実情に応じて適宜決定すべきものとする趣旨であつて、宿日直手当についても、国の給与法規たる人事院規則を直ちに地方教育公務員にも適用し、これの定めるところに従わしめる趣旨ではない。

(一)  まず、憲法第九二条は、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」と規定する。この地方自治の本旨とは、地方公共団体の行政事務は住民の意思によりこれを決し、能うかぎり国はこれに干渉しないとするものであつて、地方公共団体の行政事務に関する法律はこの基本原則に従つて解釈されねばならず、地方自治法、地方公務員法が地方公務員の給与等を条例をもつて定むべきものと規定するところも、みぎの地方自治の本旨を明らかにしたに過ぎないものである。従つて、原告ら主張の前示施行令第一一条をもつて、地方公務員の宿日直手当を全国劃一的に人事院規則の規定する額を支給すべきことを定めたものと解することは、明らかに地方自治の本旨に反するものであり、また、みぎ施行令第一一条を原告主張のように解すれば、同条は憲法第九二条に違反するものというほかない。

(二)  また、前示施行令第一一条は、給与については「国立学校の教育公務員の例による」との文言を用いているのに対し、その但書においては「特殊勤務手当はなお従前の例による」といつて、これを区別して規定している。もし、原告主張のようにみぎ施行令第一一条が、公立学校の教育公務員の給与はこれを国立学校の教育公務員の給与と全く同一に扱う趣旨にでたものであるならば、給与についても、特殊勤務手当と同様「なお従前の例による」と規定すれば足りこれら規定を区別する必要はないものである。にもかかわらず、みぎのように区別した規定がなされたのは、みぎ施行令第一一条の法意が、公立学校の教育公務員の給与を国立学校の教育公務員に適用される給与と同一に扱う趣旨にあるのではなく、各地方公共団体においてそれを基準にして適宜に定めさせる趣旨と解するほかない。

(三)  さらに、前記義務教育費国庫負担法第二条、同法施行令第四条により文部大臣が大蔵大臣と協議して定める宿日直手当の額は、これを国家公務員の例に準じて定めるものと規定し、教育公務員特例法第二五条の五は、削除された同法旧第三三条に代つて、公立学校の教育公務員については、国立学校の教育公務員の給与の種類及びその額を基準として定めるものとすると規定しているので、これら法令の規定からも、みぎ施行令第一一条は公立学校の教育公務員の宿日直手当の額は国立学校の教育公務員のそれと同一にすべきものとしたものでないと解することができる。

5 地方自治法施行規程(昭和二二年政令第一九号)第五五条第二項は、「都道府県の吏員の給与について、地方公務員法制定までの間、官吏の俸給その他の例による」としていたのは、みぎ施行令第一一条と同じであるが、みぎ規程の解釈につき次の裁判例がある。すなわち、知事が橋梁の竣工に功労のあつた吏員に対し賞与金を支出したところ、官吏の給与には賞与という項目がないから、みぎは、同規程にてい触する違法な公金の支出であるとして知事らを背任罪として起訴した刑事事件に関し、裁判所が、みぎ規程を吏員の給与につき一応の基準を示した訓示規定であると判示したことからも明かなように、みぎ施行規程の「例による」とは、訓示規定と解すべきで、その規定の文言を同じくする前示施行令第一一条も公共団体における地方教育公務員の給与は、国立学校に勤務する教育公務員の給与の種類及びその額を一応の基準としてこれを決定すればよいとの訓示規定といわねばならない。

五、つぎに、原告主張の条例第四一号第二二条、第四二号第二一条および教育委員会規則第三条第一項には、なんら違法無効の点はない。すなわち、

1  まず、原告らは、本件条例第二二条等は条例中で宿日直手当の額までを定めていないから無効であると主張する。

しかし、地方公務員法第二四条第六項にいう条例で定むべき給与に関する事項を同法第二五条第二項(昭和四〇年法律第七一号による改正前の規定)が列挙しているが、そこには宿日直手当の文言はない。宿日直手当の額は、同項第七号にいう「前各号に規定するものを除く外、給与の支給方法及び支給条件に関する事項」にあたらない。のみならず、地方公務員法制定の当初には地方自治法第二〇四条が地方公共団体の職員に対する給料及び旅費を支給しなければならず、その給料及び旅費の額並びにその支給方法は条例で定めるべきものと定めながら、「手当」についてはとくにふれるところがなく、後にこれを加えたものであるが、その改正に伴つて、地方公務員法第二五条第二項の規定は改正されなかつた。さらに、実質的にも宿日直手当はその性質上臨時的であり、かつ、一般職員のうける給料諸手当のうちでも比較的少額であるところから、法は、給与は条例で定めるものとしながらも、宿日直手当の額についてはこれを条例中で定めることを必要としなかつたものと解される。

従つて、法は宿日直手当の額までを条例中で定めるべきことを要請していないものと解すべきで、本件条例第二二条等が宿日直手当の額までを定めておらないものであつても、これを理由に違法のものということはできない。

2  つぎに、地方公務員法第二四条第六項は、条例中で給与の細目にわたつてまでこれを定めるべきことを要請するものではなく、その法意は、前記同法第二五条第二項の場合を除き、地方公務員の給与に関しては自主立法たる条例にその根拠をおくべきことを求めたにとどまる。従つて、条例中でその細目にわたつて定めるか、あるいはまたそれら細目を定めることを他の特定の機関に委ねるかは、条例制定の機関たる県議会に一任したものと解すべきである。

このことは、法律又は政令で規定すべしと定められた事項の内容を下位の省令規則ないし行政処分に委ねる立法例が枚挙にいとまなく、とくに、宿日直手当が、前記のような性質をもつほか、その支給すべき額についても年度ごとの変動が予想される類のものであるから、地方公共団体の財政の円滑な運営と適切な手当額の決定にそうためには、むしろこれを行政機関の迅速適切な運用に委ねることが適当であることは明らかであつて、現に、至近な立法例としても一般職の職員の給与に関する法律第一九条の二は宿日直手当の定額の決定を人事院規則に委任している次第で、本件条例第二二条等が地方教育公務員に対し支給すべき宿日直手当の額の決定を教育委員会規則に委任したことをもつて違法のものということはできない。

3  さらに、原告らは、本件条例第二二条等は原告ら地方教育公務員に対し支給すべき宿日直手当の額の決定を任命権者たる教育委員会の制定する規則に委任し、しかも、その委任自体は白紙委任に等しいものでその裁量が恣意にわたることのないよう制約することがない点において違法であると主張する。

しかしながら、本件条例は、第二二条等において支給すべき金額の範囲を規定し、かつ、第二九条等において、教育委員会が地方教育公務員に支給する宿日直手当の額を定める規則を制定するにあたつては、群馬県人事委員会と協議すべきことを規定している。そして、これら宿日直手当の額の決定に対して不服がある場合、原告ら地方公務員は、地方公務員法の規定により同人事委員会に措置要求をなすことができ、その救済を保障されているものである。現に、宿日直手当につき昭和三五年一月二二日なされた地方教育公務員たる要求者の要求に対し、同人事委員会は同年一〇月一四日宿日直手当の額を増額する必要がある旨の措置要求の一部を認容する判定をしており、これに関し教育委員会はみぎ判定の趣旨に従つて順次規則を改正してその額を増額しているものである。

従つて、原告らの主張は、いずれも理由なく、本件条例第二二条等を違法とすることは許されない。

六、最後に、仮りに原告らの宿日直手当の差額債権があるとしても、本訴において原告らが主張する債権は、原告ら地方教育公務員の給与請求権であるから労働基準法第一一五条による二年間の時効期間によつて消滅すべきものである。原告らの宿日直手当は、その勤務にかゝる月の分を翌月の給料支給日、すなわち毎月二一日に支給すべきものと定められているから、本件各訴の提起された日から二年以前にみぎ履行期の到来した各債権はすでに時効により消滅した。従つて、別紙第一債権目録記載(一)、(二)の原告らの債権のうち昭和三三年四月三〇日以前に、別紙第二債権目録記載(一)、(二)の原告らの債権についてはそのうち同年五月三一日以前に、別紙第三債権目録記載(一)、(二)の原告らの債権についてはそのうち同年六月二九日以前に、それぞれ履行期にあつた分は、いずれもすでに時効により消滅しているものである。

なお、後記原告主張第四の七の事実のうち、別紙第一ないし第三債権目録記載各(一)の原告らが、それぞれその主張の期間宿日直勤務をなし、それら宿日直勤務について支給をうくべき宿日直手当について、原告ら主張の法定支給額から既支給額を控除した差額が、いずれも原告主張の通りであること別紙第一ないし第三債権目録各別表の第二欄に「零」と記載された原告らが、その主張期間内に宿日直勤務をしておらないことを認める。

さらに、原告らのうち別紙第一債権目録記載(一)の原告らが昭和三三年四月一日から、別紙第二債権目録記載(一)の原告らが昭和三三年五月一日から、別紙第三債権目録記載(一)の原告らが昭和三三年六月一日から、いずれも、本件規則適用の日の前日である昭和三三年九月三〇日までの間に、それぞれの勤務する群馬県内の公立学校において勤務した宿日直勤務についての原告主張の未支給額は計算上別紙第一ないし第三債権目録各別表の第三欄記載のとおりであることは認める。なお、原告らのうち別紙第一ないし第三債権目録記載各(二)の原告らは、前記のそれぞれの期間においては、その勤務する公立学校において宿日直勤務をした事実がない。

第四、被告の答弁および抗弁に対する原告の主張

一、第三の四の1の事実のうち、群馬県において被告主張の宿日直手当支給要綱が定められ、これに定められた額が宿日直手当として支給されていたことは認める。その余の主張は争う。

1  被告主張の日時頃、国立学校の教育公務員が宿日直勤務をしたときは、その手当を超過勤務手当として支給されていたことは被告主張のとおりであるが、それは、後に昭和二七年法律第三二四号により改正されるまでは被告挙示の法律には「宿日直手当」の項目がなかつたことから、みぎの取扱いがなされたものであつて、その支給の名目は超過勤務手当であつても、それが教育公務員のなした宿日直勤務に対し、支給される手当として、実質的には改正後の宿日直手当にあたることは異論のないところである。

そして、前記教育公務員特例法第三三条と同法施行令第一一条が、公立学校の教育公務員の給与については国立学校の教育公務員の例によると定めたのは、公立学校の教育公務員が地方公務員となつて、その身分に変動があつたのちも、なお従前国の教育公務員であつた当時と同一の処遇を暫定的にではあるが与えようとした趣旨にほかならないから、宿日直手当に関しても当然に国立学校におけると同様宿日直勤務に対する手当を超過勤務手当として支給するという法律の定めに基づきその支給がなされることとするものであつて、附則第六項にいう従前の例もこの法律制度をさすものである。また、労働基準法の適用をうけることになつても、公立学校の教育公務員に対し宿日直勤務を命じ得ないものではないことは被告の自認するところであり、他方、国立学校の教育公務員の宿日直勤務に対しその手当が超過勤務として支給されていたが、これが宿日直務にする手当であることは前記のとおりであるから、被告の認めるごとく、市町村立学校の教育公務員に対し支給すべき宿日直勤務に対する手当は、市町村立学校職員給与負担法により、被告県の負担であることは明らかである。被告の主張するところは、当時国立学校の教育公務員のなした宿日直手当に対して支給されていた手当が超過勤務手当として支給されていたことを理由に、それが実質は現行の宿日直手当であることを無視した立論というほかない。

つぎに、被告は、義務教育費国庫負担法、同法施行令、市町村立学校職員給与負担法が定めるところは、教育公務員特例法旧第三三条にいう他の法律で特別の定めある場合にあたると主張する。しかしながら、みぎの法律は、義務教育費の半額を国庫において負担すること、すなわち、国と公共団体との間の義務教育費の負担の割合を定めたものであつて、公立学校の教育公務員の給与請求権についての規制を企図したものではない。義務教育費国庫負担法施行令第四条にいう文部大臣が大蔵大臣と協議して定めた宿日直手当の額は義務教育費の国庫負担額算出のための基準を定めるに過ぎないものであつて、地方公共団体が公立学校教職員に対して支給すべき宿日直手当の額をみぎの額により決定するとするものではない。従つて、みぎ各法令は、教育公務員特例法旧第三三条とは規定の趣旨対象を異にし、かつ、教育公務員特例法施行の日と異なる昭和二三年四月一日に遡及せしめていることを考えあわせると、これらの規定するところが、同法旧第三三条にいう特別の定めある場合にあたるとは解されない。それのみならず、みぎ施行令の定められたのは、同法旧第三三条の施行の日に遅れる同年五月七日であるからみぎ同条がその特別の定としてみぎ施行令をも含ませる趣旨であつたとは解されない。

以上のように、被告主張の支給要綱の法的根拠は、いずれもその理由がないものであるから、かりに、みぎ支給要綱に基づき、群馬県において地方教育公務員に対する宿日直手当が支給されていたとしても、これが地方公務員法附則第六項にいう従前の例による適法の取扱いであつたということはできない。

2  被告は、昭和二六年六月二六日公布の教育公務員特例法の一部を改正する法律および同法施行令により、旧第三三条および施行令第一一条は削除されたから、これにより前記人事院規則の適用はないと主張する。

法令の改廃に伴いその経過規定として「なお従前の例による」とある場合には、当該事項を従前から規制していた法律およびこれに基づく当該事項に関する命令等を併せてそれら法規が、包括的に、かつ、いわば凍結されたままで適用されるとするものである。地方公務員法附則第六項は、地方公務員に適用されるべき給与条例が制定されるまでの間はなお従前の例によると規定しているのは、教育公務員特例法旧第三三条、同法施行令第一一条により、公立学校の教育公務員の給与については国立学校の教育公務員の例によるとされた法律適用の状態が、その凍結したままで地方教育公務員に適用されるとするものであるから、後に国立学校の教育公務員の給与が改正されたときは、これら改正規定が当然に公立学校の教育公務員に対してもその適用あるべきこととなるものである。

3  さらに、被告は教育公務員法第二五条の五は地方公務員法附則第六項の特別規定であると主張するけれども、みぎ第二五条の五は、地方公共団体が地方教育公務員の給与に関する条例を制定する際の基準を定めたものであつて、地方公共団体が条例によらずして他の何らかの方法で宿日直手当の額を決定することを容認する趣旨ではないことは、その文言から明らかである。従つて、同条が附則第六項を改廃するものでもなければ、その特別の定めを規定するものでもないことも明らかである。

4  被告は前示施行令第一一条は、地方公共団体において地方教育公務員の給与を国立学校の教育公務員の給与に準じて実状に応じ適宜決定すれば足る趣旨であると主張し、まず、地方自治の本旨を説く。しかし

(一) 被告が地方自治の本旨に従いその地方公共団体独自の立場で宿日直手当の額を含む地方公務員の給与を定めることが望ましいことは被告主張のとおりであり、地方自治法第二〇四条、地方公務員法第二四条第六項もみぎの趣旨であろう。しかし、本件におけるように公務員の身分の変更があつた場合にその給与に関する法規の制定まで根拠規定に空白状態を避けられずそのため身分の変つた公務員らが不利益をこうむるおそれのある場合に、その処遇を従前のそれと同一に扱うとする施行令第一一条のような経過規定を設けることは一般にもやむを得ない措置である。被告の主張は、条例の制定を遅らしめた自らの怠慢を忘れた議論であつて、失当というほかない。

(二) さらに、被告は前示施行令第一一条を前記のような趣旨に解すべき根拠として、同条但書の規定をあげる。しかしながら、同条が但書において、特に公立学校の教育公務員の特殊勤務手当について規定したのは、公立学校の教育公務員が教育公務員特例法第三条により国家公務員でなくなつたため、政府職員の特殊勤務手当に関する政令第一二章の公立学校職員の特殊勤務手当の規定が適用されなくなるところ、施行令第一一条本文でその給与を「国立学校の教育公務員の例による」と定めたのみでは公立学校の教職員には特殊勤務手当が支給されないこととなるので、この結果をさけんとする配慮のもとに「特殊勤務手当」に関しては、みぎ政令の適用のあることを規定するため、特に「なお従前の例による」としたものである。このように施行令第一一条但書の文言が給与に関する本文のそれと異なるのは、みぎの立法の経緯によるものであつて、みぎ但書の規定をもつて被告の主張を理由づけることはできない。

(三) さらに被告は、義務教育費国庫負担法、同法施行令、教育公務員特例法第二五条の五の規定等の趣旨からも施行令第一一条は被告の主張の趣旨に解されねばならないと主張するけれども、みぎの法令の立法の趣旨ないし規定の対象は先に主張したとおりであつて、これら法令が被告の主張を根拠づけるものではないことは明らかである。

5  なお、被告は、地方自治法施行規程第五五条第二項に関する刑事事件の判決を援用して前示施行令第一一条を訓示規定であると主張するが、みぎ施行規程は地方自治法第二〇四条の明文がある場合に関するもので、本件のように条例の全く存しないときに身分の変更のあつた場合に関する規定とは本質的に異なるものであるばかりか、みぎ施行規程は、地方自治法附則第九条に基づくものであるが、同条は、「地方公共団体の職員に関して規定する法律が定められるまでの間は従前の規定に準じて定める」と、前示施行令第一一条の文言と異なつた文言を用いて規定するものであり、かつ、刑事事件について犯罪の成否に関する法の解釈と民事事件としての解釈とはその基準を異にするから、いずれにせよみぎ判決は本件で被告主張の解釈を理由づける適切の根拠とはならない。

六、つぎに、被告主張の第三の六の事実のうち、原告ら地方教育公務員に対する宿日直手当の支給期日が被告主張通りであつて、同日がその履行期であることは認める。

しかしながら、原告らが本訴で主張する宿日直手当請求権の消滅時効の時効期間は、地方自治法(昭和三八年法律第九九号による改正前のもの)第二三三条、会計法第三〇条により、五年である。

1  本訴において請求する原告らの債権は、普通地方公共団体である被告県の支払金にかかるものであるから、地方自治法第二三三条により会計法第三〇条の適用がある。

もつとも、会計法第三〇条は、時効に関し他の法律に規定のない限りにおいてと規定しているが、みぎにいう他の法律とは同法同条の立法の沿革に鑑みるときは、債権の発生原因に着目し、私法によるものであるときは私法上の時効規定、公法によるものであるときは公法上の時効規定をさすものと解することが相当である。従つて公法上の法律関係にもとづく金銭債権にあつては、みぎの法律関係を規定する公法規定中に特別の消滅時効の制度が設けられていればこれによるが、そのような規定のないときは、その債権の消滅時効については会計法第三〇条が適用され、それが定める時効期間によるものというべきである。そして、原告らの被告に対する本件宿日直手当受給請求権は公法上の勤務関係に基づいて発生したものであり、みぎの公法上の勤務関係を規律する地方公務員法にその消滅時効に関する特別の規定はないのであるから、その消滅時効の時効期間は地方自治法第二三三条、会計法第三〇条により五年間と解すべきである。

2  被告の主張は、地方公務員法第五八条第二項が地方公務員に対し労働基準法第一一五条の適用を除外していないとの理由につきる。

しかし、地方公務員法第五八条第二項が労働基準法第一一五条の適用を明示的に除外していないことから、直に同条が地方公務員たる原告ら労働者にも適用されるものと速断することはできない。もともと、労働基準法は、雇用契約に関する民法の特別法であつて本来私法上の労働契約にその適用をみるものであり、公法上の労働契約ないし労働関係にその適用を予定したものではない。地方公務員法は労働基準法の規定を原則的に適用すべきものとするが、これは、たまたま地方公務員法制が確立した当時労働契約ないし労働条件について一般的な最低基準を定めた労働基準法が既に制定施行されていたところから、本来地方公務員の労働関係ないし労働条件の基準を制定しこれらを規制する独立の法典を制定すべきであつたのを、これにかえて、その労働関係が公法上のものであるにもかかはらず、労働基準法の定める労働条件に関する基準ないし規制を地方公務員の労働条件について流用適用せしめることとしたに過ぎないものである。従つて、公法上の労働関係に公法特有の法規制が存するならば、その規制が直に第一義的に、すなわち、一般法たる労働基準法より優先して適用さるべきことは多言を要しない。これを地方公務員の公法上の契約関係に基づく給与請求権の消滅時効についてみれば、特に地方公共団体に対する公法上の請求権について、地方自治法第二三三条、会計法第三〇条の特別の規定があり、これが適用され得る以上、これらが公私法共通の一般法規たる労働基準法第一一五条を排して優先的に適用されることは当然である。

3  労働基準法は労働保護立法であつて、その賃金債権の消滅時効についていえば、その時効期間を二年と定め民法の規定するところを延長するなどして労働者を保護することに、その趣旨目的があるのであり、労働条件を労働者保護の面において不利に修正する結果となるような解釈適用をみることは立法の趣旨に反するものである。のみならず、同法第一条第二項に明示するように、労働基準法は最低の基準を定めるものであり、かつ労働基準法の定める基準であることを理由に労働条件を低下せしめることを禁止するものであるから、本法の規定するところ以上の労働者に対する保護基準を認めることは同法の意図し要請するところといわねばならない。公務員の給与債権の消滅時効については、会計法に労働基準法に定める以上に有利な規定が存し、前記のとおりこれを適用すべき法理があるのに、被告の主張するように労働基準法第一一五条を適用して、これを労働者に不利に短縮することは、前記労働基準法の立法趣旨に反し、同時に同法第一条第一項において禁止するところの労働基準法の定める労働条件であることを理由に労働条件を低下せしめるものにあたるというべきである。

4  さらに、原告ら地方公務員と国家公務員の勤務条件が互いに均衡を保つべきことは地方公務員法第二四条等の規定するところであるが、仮に、被告主張のように解するときは国家公務員の給与については会計法第三〇条の規定により五年の消滅時効にかかるものと解せられるのにかゝわらず、地方教育公務員のそれについては二年の消滅時効にかゝることになつて、格別の差異を設くべき合理的理由のないので著しく均衡を失することとなる。これのみではなく、原告ら公立学校の教育公務員は、昭和二四年一月一二日教育公務員特例法の施行に伴つてその身分が変更されたものの、その勤務内容については何らの変更もないのである。

以上のように、原告らが本訴で主張する宿日直手当請求権については、労働基準法第一一五条の適用があり、二年間これを行わないときは時効により消滅するものであるとする被告の主張は、全く理由のないものである。

七、なお、仮に、原告らの宿日直手当請求権の消滅時効の時効期間が被告主張のとおりであつたとしても、原告らのうち別紙第一債権目録記載(一)、(二)の原告らのうち同目録別表第二欄に「零」と記載された原告らを除くその余の原告らが、昭和三三年四月一日から、同じく別紙第二債権目録記載(一)、(二)の原告らのうち同目録別表第二欄に「零」と記載された原告らを除くその余の原告らが、同年五月一日から、同じく別紙第三債権目録記載(一)、(二)の原告らのうち同目録別表第二欄に「零」と記載された原告らを除くその余の原告らが、同年六月一日から、いずれも昭和三五年三月三一日までの間前記請求原因一および三記載のとおりその勤務する群馬県内の公立学校において宿日直勤務をなし、それら宿日直勤務につき前記法定支給額から前記請求原因三記載の既支給額を控除した額を各原告らについて計算すると、別紙第一ないし第三債権目録各別表の各第二欄(「原告第二次主張債権額」)記載のとおりであり、同原告らはみぎ額の宿日直手当請求権を有するものである。

なお、別紙第一債権目録記載の原告のうち、同目録別表第二欄に「零」と記載された原告らは、昭和三三年四月一日から、同じく別紙第二債権目録記載の原告のうち同目録別表第二欄に「零」と記載された原告らは、同年五月一日から、同じく別紙第三債権目録記載の原告のうち同目録別表第二欄に「零」と記載された原告らは同年六月一日から、いずれも昭和三五年三月三一日までの間は、前記請求原因一および三記載の群馬県内の公立学校において宿日直勤務をなした事実はない。

また、前記被告の主張六の原告らのなした宿日直勤務および未支給宿日直手当に関する事実のうち、被告主張の期間その主張の原告ら、すなわち、別紙第一ないし第三債権目録記載各(一)の原告らがその勤務する公立学校において宿日直勤務をなし、これらにつき被告主張の額の宿日直手当の支給をうけたこと、これを、前記主張の法定支給額から控除して各原告らにつき計算すると、みぎの原告らの未支給宿日直手当債権は被告主張のとおり別紙第一ないし第三債権目録別表各第三欄記載のとおりであること、および別紙第一ないし第三債権目録記載各(二)の原告らは、被告主張の期間宿日直勤務をなしたことはないことは認める。

理由

一、原告らは、いずれも少なくともその主張する期間群馬県内の公立学校の教育公務員として、その公立学校に勤務していたものであり、被告が宿日直手当を含む原告ら公立学校の教育公務員に対する給与の支給義務者であること、原告らがいずれもその勤務する群馬県内の公立学校においてその主張通りの宿日直勤務(勤務時間五時間に満たない日直勤務を含む)をなし、その宿日直手当として各主張金員の支給をうけたことは当事者間に争いがない。

二、原告ら公立学校の教育公務員の給与については、地方公務員法第二五条第一項、第二四条第六項が条例でこれを定めこれに基づかずして支給してはならないことを規定しているところ、群馬県は、同法に基づく条例として昭和三一年九月二九日群馬県立学校職員の給与に関する条例(条例第四一号)および群馬県市町村立学校職員の給与に関する条例(条例第四二号)を制定し、前者はその第二二条において、後者はその第二一条において、宿日直手当の額および支給方法の決定を教育委員会規則に委任し、群馬県教育委員会は昭和三三年一〇月一八日みぎ委任に基づき「群馬県公立学校職員の宿日直手当支給に関する規則」(教育委員会規則第一二号)を制定し、これを同年一〇月一日に遡つて適用することとした。従つて、前記地方公務員法の施行された昭和二六年二月一三日から、みぎ給与条例や教育委員会規則の制定されるまでの間における地方教育公務員に対する宿日直手当の支給は、地方公務員法附則第六項が職員の任免、給与、分限、懲戒、服務その他身分取扱に関する事項について「なお従前の例による」と規定していることから、「従前の例」に従うべきものと解されるが、その従前の例とはなにを指すかについて検討する。

まず、昭和二四年一月一二日に施行された教育公務員特例法(昭和二四年法律第一号)第三一条によつて公立学校の教育公務員は当該地方公共団体の公務員に身分が移され、同法第三三条(昭和二六年法律第二四一号による改正前の規定)、以下「教育公務員特例法旧第三三条」という。)で、「別に地方公共団体の職員に関して規定する法律が制定施行されるまでの間は、政令で特別の定めをすることができる」ものとし、前同日教育公務員特例法施行令(昭和二四年政令第六号)を制定し、その第一一条(昭和二六年政令第二一九号による改正前の規定、以下単に「施行令第一一条」という。)で、「公立学校の教育公務員の給与については国立学校の教育公務員の例による」として、前記の身分の変更があつた後も、地方公共団体の職員に関する法律が制定され公立学校の教育公務員の給与に関する根拠規定が制定施行されるまでの間は、公立学校の教育公務員の宿日直手当を含む給与については国立学校の教育公務員の例によることと定め、それと同一の取扱いをすることとして、身分の変動に伴う給与の変更をさけるとともに、その根拠規定として、一時的に国家公務員の給与規定によることを明かにしたものと解さなければならない。

そして、昭和二五年一二月一三日地方公務員法が制定され、その第二四条第六項により前記のとおり職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は条例により定めるものと規定され、その給与に関する条例が制定施行されるまでの間の経過措置として同法附則第六項は、従前の例によるものとして、ひきつゞき前記施行令第一一条が適用されて、その給与は、国立学校の教育公務員の例によるものとされるとともに、その特殊勤務手当については従前の例によるものとなつた。

三、しかるところ、被告は、みぎ地方公務員法附則第六項が施行された昭和二六年二月一三日当時には、群馬県においては、先に定められた「公立小学校及び中学校教職員の日直手当及び宿直手当支給要綱」に基づき、その宿日直手当を支給していたから、同法附則第六項本文にいう「従前の例」とは、これを指すものであると主張する。しかし、

1  まず、地方公務員法施行当時には国立学校の教育公務員については「宿日直手当」に関する規定がとくになかつたことは認められるが、それ故、教育公務員特例法旧第三三条、施行令第一一条の規定にもかかわらず、よるべき国立学校の教育公務員の例がなかつたものとは解しがたい。当時国立学校の教育公務員についてはそのなした宿日直勤務に対しては、政府職員の新給与実施に関する法律の一部を改正する法律(昭和二三年法律第二六五号)第二一条に基く超過勤務手当が支給されていたものであつて、前記施行令第一一条にいう宿日直手当に関する国立学校の教育公務員の例とは、まさにこれをさすものと解すべきである。

ところで、みぎの国立学校の教育公務員のなした宿日直勤務に対し支給された超過勤務手当が、まさに、原告らのいう宿日直勤務に対する手当であると解さざるをえないのであるから、仮に、地方教育公務員が労働基準法の適用をうけて一般には上司が超過勤務を命じ得ないものとしても、被告の自認するとおり労働基準法上の超過勤務とは異る宿日直勤務を地方教育公務員に対して命ずることができ、かつ、現に宿日直勤務がなされている以上、これら宿日直勤務に対してその手当を支給すべきことは、前記施行令の規定よりして当然である。そして、国立学校の教育公務員のなした宿日直勤務に対し従前支給されていた超過勤務手当は、宿日直勤務に対する手当にほかならないから、当時において市町村立学校職員給与負担法第一条が学校職員の宿日直手当を都道府県の負担とする以上、市町村立学校職員に対する宿日直勤務の手当の支給は都道府県の負担であることは明らかで、被告が宿日直勤務に対する手当を負担すべき立場にあつたものと考えられ、これに反する被告の主張は理由がない。

2  つぎに、被告は、前記支給要綱の法的根拠として、義務教育費国庫負担法、同法施行令および市町村立学校職員給与負担法をあげ、これらが教育公務員特例法旧第三三条の特別の定めにあると主張する。しかし、同条は、「この法律若しくはこれに基く命令又は他の法律の特別の定めがあるものを除くほか……政令で特別の定をすることができる」旨規定するも、みぎ支給要綱は、ここにいう「この法律若しくはこれに基く命令又は他の法律」には当らないことは明らかであり、同条にいう政令に基づくものと解することもできない。被告の義務教育費国庫負担法により文部大臣と大蔵大臣とが協議して宿日直手当の額を決定する旨の主張は、到底みぎ支給要綱の法的根拠とすることはできない。同施行令第四条所定の手続により決定された額は、義務教育費の国庫負担額算出のための基準であつて、その額により、国は地方公共団体に対し交付金ないしは補助金を支出するものとするにすぎず、同条は、みぎの手続により決定した額をもつて各地方公共団体についてその職員たる地方教育公務員に対する宿日直手当の額と定め、これと同額を支給させるとするものでもない。従つてみぎの被告の指摘する法令は教育公務員特例法旧第三三条の規定とは、その立法の目的、規定の対象を異にするから、これが被告の主張するような特別の定めをなすものと解することはできない。

3  さらに、被告は、群馬県教育委員会は、当時施行の教育委員会法(昭和二三年法律第一七〇号)第四条・第四九条により、本来の権限として学校その他の教育機関の職員の任免その他人事に関する事務を行うことができるものであつて、公立学校の職員に対し支給すべき宿日直手当についてもこれを決定する権限を有するもので、みぎ「支給要綱」はこの権限に基づくものであると主張するが、同法第四九条第五号にいう「人事に関する事務」とは具体的な任命、免職その他の身分取扱いに関する事務をいうのであつて、同条が県教育委員会に対し宿日直手当を含む給与の額およびその支給方法等の労働条件について、これを一般的に決定する権限までを与えたものとは解しがたい。すなわち、みぎの決定権は、地方公共団体である群馬県に属したものであり、群馬県教育委員会が、みぎ支給要綱のような宿日直手当の支給に関する法規を適法に制定する権限があつたものということはできない。

4  以上のとおり、みぎ支給要綱は法的根拠を欠くものであるから、みぎ支給要綱に基づく地方教育公務員に対する宿日直手当の支給は地方公務員法附則第六項にいう従前の例によつた適法な取扱いということはできない。

四、つぎに、被告は、教育公務員特例法第二五条の五の規定は地方公務員法附則第六項の特別規定であると主張するが、みぎ第二五条の五の規定は、地方公務員法がその第二四条第六項で職員の給与等を条例で定めるとしたことに照応して前示教育公務員特例法旧第三三条を削除してこれを新たに設けたもので、条例制定の場合の給与の種類や額の基準を示したに過ぎないものであつて、これをもつて前示支給要綱の法的根拠とすることができないことはいうまでもないのみならず、みぎ条例が制定されるまでの間前記附則第六項による従前の例によることまでをも変更したものと解することはできない。そもそも、教育公務員特例法第二五条の五は教育の水準を全国的に均等に保つべき要請に基づいて、公立学校の教育公務員の給与が各地方公共団体を通じて差異を生じないよう国立学校の教育公務員のそれを基準として定めるものとしたものであるから、本来地方公務員法第二四条施行と同時に規定されていなければならないところであるが、その制定が遅れたためとくに遡及してその適用がなされるに至つたものと解されるので、同条が附則第六項の適用を排して、条例未制定の間の給与の支給に関し新たな規定をなしたものとまでは解することができない。

また、被告は、教育公務員特例法旧第三三条が削除され、ついで前示同法施行令第一一条も削除されて、同法第二五条の五が新設されて昭和二六年六月一六日に施行され、同年二月一三日から適用されることとなつたので、その後の昭和二八年一月一日から適用された人事院規則九―一五は原告らの宿日直手当については、適用されないと主張するけれど、前記のとおり、施行令第一一条により公立学校の教育公務員の給与について、国立学校の教育公務員の例によると規定したのは、給与については国立学校の教育公務員のそれと同一に取り扱うとする趣旨であるから、国立学校の教育公務員の宿日直手当の根拠規定が後に改正されれば、これに応じて公立学校の教育公務員の宿日直手当についても同様の取扱いとなることは当然である。もし被告主張のように、施行令第一一条をもつて、前記改正法施行当時の昭和二六年二月一三日直前の国立学校の教育公務員の宿日直手当のそれに固定するものとすれば、両者を同一に取り扱つたことにならないこととなり、施行令第一一条の前記趣旨に反することとなることは明らかである。

五、さらに、被告は、みぎ施行令第一一条は、地方教育公務員の給与を国立学校の教育公務員の給与と同一に取り扱わしめる趣旨ではなく、各地方公共団体において適宜にこれを決定することを許容する趣旨であると主張する。

1  憲法に保障する地方自治の本旨からは、各地方公共団体が一方においてその独自の立場でその職員たる地方教育公務員の宿日直手当の額を決定することが望ましいものとしていることは疑いない。地方自治法第二〇四条地方公務員法第二四条の規定もこの趣旨によるものである。

しかし、反面みぎ施行令第一一条は、公立学校の教育公務員の給与について、その身分が地方公務員に変更されたことにより生ずる給与規定の空白を避けるために、早急にその根拠規定が整備されることを予想した上で、みぎに至るまでの経過措置として国立学校の教育公務員と同一に取り扱うとしたものであつて、これによつて、公立学校の教育公務員が、みぎの法律による身分の変更のため当面給与上での不利益をうけることがないよう保障すると同時に、前叙の教育の全国平準化の目的にもそうものとして規定せられたもので、憲法に保障する地方自治の精神から、同条を直ちに被告主張のように解することはできないし、同条をもつて憲法第九四条に違反するものともいうことができない。

2  つぎに、被告は、施行令第一一条本文が「……国立学校の教育公務員の例による」とするのに対し、同条但書が「……特殊勤務手当については、なお従前の例による」として特殊勤務手当については異つた文言により規定することを根拠とする。

しかし、施行令第一一条但書に特殊勤務手当についてはなお従前の例によると規定したのは、教育公務員特例法施行前は公立学校の教育公務員は政府職員の特殊勤務手当に関する政令(昭和二三年政令第三二三号)第一二章の適用をうけ、特殊勤務手当の支給をうけているものであつたところ、同法の施行により政府職員たる身分を失つた結果、その給与について国立学校の教育公務員の例によると規定したのみでは、国立学校の教育公務員には特殊勤務手当に関してはよるべき例がないため、従前うけていたところの特殊勤務手当はその支給をうけられなくなるので、これについては、公立学校の教育公務員が地方公務員となつた後も、なお従前どおり特殊勤務手当の支給をうけ得るようにするため、特に従前の例によると規定したものである。同施行令第一一条但書の規定がその本文のそれと文言を異にするのは、みぎの趣旨・立法の理由によるものであるから、みぎ但書の規定を根拠に施行令第一一条本文の規定を被告主張のような趣旨に解することは許されない。

3  さらに、被告は、義務教育費国庫負担法、同法施行令および教育公務員特例法第二五条の五の規定するところを根拠に、みぎ施行令第一一条の趣旨を被告主張のような趣旨に解すべきであると主張するけれども、みぎの被告のあげる各法令は前説示のとおりみぎ施行令第一一条とはその立法の目的ないし規制の対象を異にするものであるから、これら規定を根拠にみぎ施行令第一一条を被告主張のような趣旨に解することはできない。

4  さらに、被告は、地方自治法施行規程第五五条第二項に関する刑事々件の裁判例をみぎ施行令第一一条の解釈に類推して、同条を一応の基準を示したに過ぎない訓示規定であると主張する。

みぎ施行規程は、地方自治法附則第九条に基づくものであるところ、みぎの附則は法制定まで都道府県の吏員の給与は従前の規定に準じて政令でこれを定めると、明文で従前の規定に準ずる旨を明示しているから、みぎ附則の趣旨を下位の政令で変更し官吏の俸給の例によるとすることが許されない以上、みぎの施行規程を訓示規定と解するのは当然であろう。しかし、これは法律自体において従前の規定に準じてと明文の定めある場合にその細則を定めた政令に関する解釈であつて、施行令第一一条の場合は、その根拠法律たる教育公務員特例法旧第三三条自体が、政令の規定する事項に関して前記地方自治法附則第九条の規定と同旨の規定を設けてはいないものであるから、みぎ施行令第一一条の規定の解釈について前記地方自治法施行規定に関する判示を類推することはできない。

六、そうすると、以上にみたとおり、原告ら公立学校の教育公務員に対し適用されるべき給与に関する条例が制定施行されるまでの間は、教育公務員特例法旧第三三条に基づく同法施行令第一一条により、公立学校の教育公務員は、その宿日直手当を含む給与について、国立学校の教育公務員と同一に取り扱うとされるものであるから、昭和二八年一月一日以降は、公立学校の教育公務員に対しその勤務した宿日直勤務に対しては人事院規則九―一五第二条で定める額と同一の額の宿日直手当が支給されるべきものである。

七、つぎに原告ら公立学校の教育公務員に適用さるべき給与に関する条例として、昭和三一年九月二九日「群馬県立学校職員の給与に関する条例」(同年条例第四一号)「群馬県市町村立学校職員の給与に関する条例」(同年条例第四二号)が制定され、みぎの各条例の委任に基づき昭和三三年一一月一八日「群馬県公立学校職員の宿日直手当支給に関する規則(同年教育委員会規則第一二号)」が制定され、みぎ規則は、同年一〇月一日から適用されることとなつたところ、原告らはみぎ条例第四一号第二二条、第四二号第二一条およびみぎ教育委員会規則はいずれも違法のものであつて無効であると主張するので、以下順次みぎの条例等の効力について検討する。

1  まず、みぎ条例第四一号第二二条(昭和三八年条例第三号による改正前の規定)および第四二号第二一条(昭和三八年条例第四号による改正前の規定)は、いずれも「宿直又は日直の勤務をした学校職員には、その勤務一回につき三百六十円を超えない範囲内において、教育委員会規則で定める額を宿日直手当として支給する。」旨規定し、前記教育委員会規則は、その第一条で、昭和三一年群馬県条例第四一号第二二条および同年群馬県条例第四二号第二一条の規定に基づき公立学校職員の宿日直手当の支給に関し必要な事項を定めるものとする旨規定し、当時の第三条第一項で、「宿日直手当の額は、宿直又は日直勤務一回につき二百二十円とする。ただし、勤務時間が五時間未満の場合には、その勤務一回につき百十円とする。」と規定する。

そして、みぎ条例第四一号第二二条および条例第四二号第二一条(以下「本件条例第二二条等」という。)は、公立学校の教育公務員を含む公立学校職員に対し支給すべき宿日直手当の額は教育委員会規則の定めるところによるとして、条例自らにおいてその定額を定めていないことは原告の指摘するとおりである。

ところで、被告は、宿日直手当は、これを条例で定めることを要しないと主張するところ、地方公務員法第二四条第六項は、職員の給与は条例で定めるとし、同法第二五条第二項(昭和四〇年法律第七一号による改正後の同法第三項に相当。)は、給与に関する条例に規定する事項をその第一号から第七号に列挙して規定するものの、これに宿日直手当の事項は含まれていないことは被告の主張するとおりである。しかし、みぎの地方公務員法の各規定は、地方公共団体の常勤の職員に対する宿日直手当の額ならびにその支給方法は条例で定めると規定する地方自治法第二〇四条の規定を前提としたものであるから地方公務員法第二五条第二項に列挙するところが制限列挙であると解することは適当としないばかりか、宿日直手当の額およびその支給方法は同条第二項第三号の「時間外勤務、夜間勤務及び休日勤務に対する給与に関する事項」のうちに含まれるものと解するのを相当とするから、公立学校の教育公務員に対する宿日直手当の支給に関する事項は、任意に他の規則ないし行政処分によつて決すれば足り、条例でもつて規定することを要しないものと解することはできない。

2  つぎに、原告らは、地方公務員法第二四条第六項、地方自治法第二〇四条第三項は、地方教育公務員の給与に関する条例において、その公務員に支給すべき宿日直手当の額はその定額を条例自らにおいて定めるべき旨を規定しているものであるから、その定額の決定を他に委任するときは、みぎの各法律に違反するものであると主張するところ、前記本件条例第二二条等が、地方教育公務員に支給する宿日直手当の手当額の決定を教育委員会規則に委任していることは、前示のとおりである。

ところで、法が、地方公務員の給与その他の勤務条件をとくに条例で定めるものとしたのは、それらは任命権者ないし服務監督権者がこれを定めることを適当としないと考えたことにその理由の一半があることは原告の指摘するとおりであろう。しかし、もともと地方公共団体の事務に従事する職員の給与その他給与に類する労働条件については、各地方公共団体が憲法により授権された自主権に基づいてこれらを規制することができるもので、そのためにはなんら特別の法律の授権は要しないものと解するのを相当とする。従つて地方公務員法第二四条第六項ないし地方自治法第二〇四条第三項が、給与その他の労働条件について条例を制定すべき旨をとくに規定したのは、同法が、地方公共団体に対しかかる条例を制定し得る権限を賦与するものではなくて、地方公務員の給与についてこれを定むべき地方公共団体の法規が地方公共団体の議会で議決された条例であるべき旨を、すなわちその規定すべき法規の形式を明らかにしたものと解される。そうすると、地方公共団体の職員たる地方公務員の給与その他の労働条件は、前記各法律に従い条例をもつて定むべきで、地方公共団体の行政機関等が規則等で決定することはもとより許されないものといわなければならない。しかし、給与その他の労働条件の細則にわたつてまでも条例自らにおいてこれを定めるべきか、あるいは、条例でそれらを他の機関の決定するところに委任することができるかは別問題で、結局、地方公共団体の有する条例制定権が本来その立法機関である議会の権限に属するものであることから、その原理が否定されない限度において議会自らが、他の機関に細目の決定を委ねることは必ずしも許されないものではないと解される。

ところで、本件条例第二二条等の規定するところは前示のとおりであつて、みぎ条例自らにおいて、すでに学校職員の宿日直手当受給請求権が具体的に生ずる勤務の種類およびその勤務一回につきそれぞれみぎ請求権が生ずる旨を規定し、その支給すべき手当額を一定の金額以下で具体的に決定することを県教育委員会に対し委任したものというべく、本件条例第二二条等がみぎの程度に宿日直手当につき規定するものである以上、前記の地方公務員法等の要請にそわないものとは直ちに解しがたいから、本件条例第二二条等が自ら手当額の定額を定めていないことにより前示地方公務員法等の趣旨を没却するものとはいいがたく、従つて、本件条例第二二条等が、前示地方公務員法ないし地方自治法に違反するものと解することはできない。

3  つぎに、原告らは、本件条例第二二条等は、受任機関たる教育委員会が一方的かつ不合理な決定をすることを制約するに足る具体的な保障を自らのうちに欠いていると主張する。

およそ、立法を委任するにあたつては具体的かつ限定的な委任であることを要することはいうまでもなく、本件条例第二二条等は、教育委員会規則の定める宿日直手当の額を三百六十円を超えない範囲においてと限定するほかは、みぎ法条自体において制約するところがないことは原告らの指摘するとおりである。しかしながら、前記昭和三一年条例第四一号はその第二九条で、同年条例第四二号は、その第三一条で、「この条例に基づく教育委員会規則は、この条例に特別の定めるものを除くほか人事委員会と協議して定める。」旨を規定しているもので人事委員会の同意を得ることまでは要求しないまでも、単なる諮問ないしは意見の聴取にとどまらず、積極的に人事委員会と合議すべきことを要求して、その決定が群馬県教育委員会の恣意にわたることのないように配慮しているうえ、他方地方教育公務員が、地方公務員法に基づき人事委員会に対し給与について措置の要求をなし得るものとされて、みぎ教育委員会規則の決定するところを是正する方途もあるのであるから、本件条例に原告ら指摘するような違法の点があるものということはできない。

また、原告らは、本件条例第二二条等が受任機関を教育委員会とした点において違法であると主張する。給与その他の労働条件が可能な限り公平かつ妥当に定められることを要請されるため、その決定が第三者の立場にある機関に委ねられることを適当とすることは原告らの主張するとおりであるけれども、教育委員会は、その構成員たる教育委員の任命につき住民の代表機関である議会の同意を経ることを要件としているもので、それは独立かつ中立の行政機関たる性質をもつ一つの行政委員会であり、また、本件条例第二二条等が委任する事項は宿日直手当の金額に関するものであるから、勤務態様を規制する労働条件の決定とは趣を異にするうえ、宿日直手当の額を定めるにつき教育委員会が適任であることもまた否定し得ないから、本件条例が受任機関を教育委員会としたことの故に、違法のものということはできない。

4  さらに、原告らは、本件条例第二二条等は、明文でその趣旨を規定しないけれども、教育委員会がその規則において宿日直手当の額を決定するにあたつては地方公務員法第一四条・第二四条、教育公務員特例法第二五条の五の規定に従い国立学校の教育公務員の給与の額を基準として定むべく、その裁量を覊束したものであるところ、本件規則は、これに反し極めて低額の手当額を定めたもので、その委任の範囲を逸脱するものであると主張する。

原告の挙示する法令は、本件規則の制定についても、遵守されねばならないことは明かであり、本件規則が国家公務員のそれに比較して低額を定めていることは否めないところであるけれども、原告があげる法令は、本件の宿日直手当額を定めるについてもその基準となりまた指標となるべきことはいうまでもないが、それは、手当額を路襲することを求めるものというより、むしろ国家公務員の給与の額を決定するにあたり配慮された諸条件をその手当額決定に際し基準とすべきことをも求めたものと解され、宿日直勤務については、各地方公共団体において国家公務員の場合に比較して、勤務の態様、難易に差異の生ずることは否定し難く、また、その手当の負担に任ずる各地方公共団体の規模、財政の面にも差等のあることであるから、受任機関たる群馬県教育委員会は、国立学校の教育公務員ら国家公務員に対して現に支給されている具体的な額と同一ないし近似した額で、原告ら地方教育公務員の宿日直手当の額を決定すべきことまで覊束されたものと解することはできない。本件規則の定める額が、国家公務員のそれに比して低額であり、かつ労働官庁が宿日直勤務の許可基準として定める宿日直手当の額を下廻るものではあるが、当不当の問題を残す余地はあれ、本件規則を違法ならしめるものとまで解することはできない。

以上のとおり、本件条例第二二条等が、地方教育公務員に対し支給すべき宿日直手当の額を群馬県教育委員会規則の定めるところに委任した点は、違法ということはできず、かつ他にみぎ条例を違法とする事由をみいだしがたいうえ、本件規則はみぎ条例の委任に基づき適法の手続により制定されたもので、これまた委任の範囲を逸脱したものとは解されないこと前説示のとおりであるから、本件条例第二二条等および本件規則を違法無効のものということはできない。

5  ところで前示のように地方教育公務員に関する給与条例が制定施行され宿日直手当については前記のとおり教育委員会規則に委任されたが、みぎ規則の制定が遅れたことも前示説示のとおりであり、前記条例第四一号は附則第三項で、前記条例第四二号は附則第五項で、「この条例において別に定めなければならない事項についての規定が実施されるまでの間は、なお従前の例による。」と規定しているところ、地方公務員法附則第六項に地方公務員法中の各相当規定が適用されるまでの間とは、宿日直手当に関していえば、その具体的な支給額および支給方法が規定され、これが地方公共団体に適用されるまでの間をいうものであつて、みぎにいう相当規定が適用されたのは、前示規則の遡及して適用された昭和三三年一〇月一日であるから、みぎ同日の前日までは、先にみた国立学校の教育公務員の例によることとなる従前の例によるべきものである。

八、そうすると原告らの請求のうち、本件給与条例の委任に基づく本件規則の適用の日の前日までの間になした宿日直勤務に関する部分は別として、みぎ規則適用の日である昭和三三年一〇月一日以降になした宿日直勤務に対しては、既に前記規則の定める宿日直手当が支給されたことは当事者間に争いのないところであるから、原告らの請求のうち同日以降になした宿日直勤務について本件条例第二二条等および本件規則の無効を主張して宿日直手当の未支給額の支払を求める部分は、その理由がないものというべきである。

九、そこで最後に時効の抗弁について検討する。

1  昭和三八年法律第九九号による一部改正前の地方自治法第二三三条には「普通地方公共団体の支払金の時効については、政府の支払金の時効による。」と規定し、政府の支払金の時効について、会計法第三〇条は、金銭の給付を目的とする国に対する権利で時効に関し他の法律に規定がないものは、五年間これを行わないときは時効に因り消滅する旨を規定している。

2  そこで、原告らの宿日直手当請求権は、普通地方公共団体である被告に対する支払金請求権に関するものであるから、みぎ請求権について会計法第三〇条にいう他の法律にあたる規定があるかどうかを検討する。

(一)  まず、原告らは、原告らの本件宿日直手当請求権は、公法上の債権であつて、会計法第三〇条にいう同条の適用を排除する他の法律とは、本件についていえばみぎ手当金について特に設けられた時効規定を指すものと解すべきところ、本件宿日直手当請求権に関する法律関係を規制する地方公務員法には特段の規定がないのであるから、会計法第三〇条により時効期間は五年である、と主張する。

しかしながら、まず会計法第三〇条にいう同条の適用を排除する他の法律とは、必ずしも公法規定にかぎるものということはできないから、本件宿日直手当請求権につきこれを規制する地方公務員法中に給与請求権の時効に関する規定がないことを理由に直ちに会計法第三〇条にいう他の法律に規定のない場合にあたるということはできない。

(二)  つぎに、会計法第三〇条にいう他の法律とは私法公法等会計法以外の一切の法律を指すもので、同法のみぎ規定は、時効について他の法律に規定のある場合には、同法の適用を排除したものといわねばならない。ところで、地方公務員法第五八条第二項(昭和三九年法律第一一八号による改正後の同条第三項に相当)は、労働基準法中特定の条文の適用を除外したが、この適用を除外されたもののうちには、労働基準法第一一五条の規定は含まれていないから、同条が地方公務員たる公立学校の教育公務員の給与請求権にも適用あるものと解さざるを得ない。そうすると、みぎの労働基準法第一一五条の規定は会計法第三〇条にいう他の法律にあたるものと解すべきである。

(三)  しかるところ、原告らは、労働基準法は一般私法上の雇用契約に関する特別法であつて、公法上の勤務関係にはその適用がないと主張するところ、たしかに同法は民法上の前記規定を修正した意味をもつであろうが、そのことから直に労働基準法は公法上の勤務関係にはおよそその適用がないものと解することはできないから、同法は地方公務員法第五八条第二項において明文をもつてその適用の除外された規定の外は、公法上の勤務関係についても適用あるものといわねばならない。

さらに原告らは、国立学校の教育公務員の給与請求権については、会計法第三〇条により五年間これを行わないときは時効により消滅するとされるのに、被告主張のように公立学校の教育公務員の給与請求権に労働基準法第一一五条の適用があるとすると、両者の均衡を失することとなり、他方原告ら公立学校の教育公務員の給与その他労働条件を不利益に修正することとなるから、労働基準法第一一五条の適用があるとすることは労働基準法の立法趣旨からも許されないと主張する。

しかしながら、国家公務員たる国立学校の教育公務員については、国家公務員法附則第一六条で労働基準法の適用を排除しているところである。その結果、その給与請求権の消滅時効の時効期間については会計法第三〇条の規定するところによるべく、これと地方公務員たる公立学校の教育公務員の給与請求権の消滅時効の時効期間とに差異ある結果となるが、このことは、とくに教育公務員に関しては前記四摘示の趣旨からは好ましくないものであり、原告ら地方教育公務員が国立学校の教育公務員に比して不利益となるものであることは否めない。しかし地方教育公務員について地方公務員法が明文をもつて除外する当該規定をあげて規定している条文に対して、国立学校の教育公務員との均衡を欠くことのみの理由で、さらに除外するものを加えることは妥当とはいえないし、結局、前記のような結果の是非は立法政策の問題に帰するのであつて、法律の解釈としては、前記の均衡を欠くことないし公立学校の教育公務員の不利益を理由として前記明文の規定に反して、労働基準法第一一五条の適用がないものと解することはできない。

(四)  そうすると、原告らが本訴で請求する宿日直手当中、日直、半日直手当は、日直、半日直勤務に対する対価として支払われるものであり、宿直手当は宿直勤務に対する対価として支払われるものであるから、いずれも労働基準法にいう「賃金」に該当すると解すべきところ、その消滅時効については、地方自治法第二三三条により会計法第三〇条に従うべく、みぎに定める他の法律である労働基準法第一一五条の適用があるものと解すべきであるから、二年間これを行わないことにより時効によつて消滅するものというべきである。

3  従つて、原告らのうち別紙第一債権目録記載(一)、(二)の原告らは、昭和三五年五月一日に、同じく別紙第二債権目録記載(一)、(二)の原告らは同年六月一日に、同じく別紙第三債権目録記載(一)、(二)の原告らは同年六月三〇日に訴を提起したものであるところ、原告らの宿日直の支給期日は、昭和三一年九月一日前記各給与条例が施行された後は、みぎ各条例各第一二条の規定にしたがい、その月に勤務した宿日直分をその翌月二一日に支払うものとされ、みぎが履行期であると解すべきであるから、みぎ訴の提起の日から遡つて二年間以前に支払期の到来しているところの、別紙第一債権目録記載(一)の原告らの債権のうち昭和三三年四月三〇日までに、別紙第二債権目録記載(一)の原告らの債権のうち同年五月三一日までに、別紙第三債権目録記載(一)の原告らの債権のうち同年六月二九日までに、その履行期の到来した分については、既に時効により消滅したものというべきである。

一〇、そうすると、みぎの時効により消滅した部分を除き、別紙第一債権目録(一)の原告らが昭和三三年四月一日から、同じく別紙第二債権目録記載(一)の原告らが同年五月一日から、同じく別紙第三債権目録記載(一)の原告らが同年六月一日から、いずれも前示本件給与条例にもづく本件規則の適用の前日までの間にそれぞれが勤務する公立学校において勤務した宿日直勤務について、前記認定の法定支給額金三六〇円(ただし勤務時間五時間未満の日直勤務については金一八〇円)を乗じた額から、既にそれら宿日直勤務に対する手当として原告らにおいて支給をうけた額を控除した額は、それぞれ別紙第一債権目録記載(一)の原告らについては同目録別表第三欄に記載された額、同じく別紙第二債権目録記載(一)の原告らについては同目録別表第三欄に記載された額、同じく別紙第三債権目録記載(一)の原告らについては同目録別表第三欄に記載された額であることは当事者間に争いがないから、被告はみぎの原告らに対しそれぞれ前記額の金員と、これらに対し、いずれもその訴状送達の日の翌日であることの明らかな別紙第一債目録記載(一)の原告らに関する分については昭和三五年六月七日から、同じく別紙第二債権目録記載(一)の原告らに関する分については同年六月七日から、同じく別紙第三債権目録記載(一)の原告らに関する分については同年七月六日から、いずれもその支払いずみまで年五分の割合による損害金員を支払うべき義務があるものというべきである。

また、別紙第一債権目録記載(二)の原告らが、昭和三三年四月一日から、同じく別紙第二債権目録記載(二)の原告らが同年五月一日から、同じく別紙第三債権目録記載(二)の原告らが同年六月一日から、いずれも前示昭和三三年九月三〇日までの間にその勤務する公立学校において宿日直勤務をなしたことはないことは当事者間に争いがないから、みぎの原告らの請求はその理由がないものというべきである。

一一、よつて、別紙第一ないし第三債権目録記載各(一)の原告らの請求は、みぎ認定の限度においてその理由があるから認容し、その余は失当として棄却すべく、別紙第一ないし第三債権目録記載各(二)の原告らの請求はすべて失当として棄却すべく、仮執行の宣言は相当でないものと認めてこれを付さないこととし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条・第九二条・第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡悌次 川添万夫 北村恬夫)

(別紙第一ないし第三債権目録省略)

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